手持ちの仕事が落ち着いて時間を持て余す時、クラウドソーシングサービスでぱらぱらとライティング案件をみている。
基本的にはひどい案件ばかりなのだが、時折優良なクライアントや面白い依頼に出会うことがある。
最近引き受けた中で面白かったのが、科学を題材にしたライトノベルの監修だ。
小説の中に登場する科学知識について、実現可能かどうかの判断や、必要な要素や科学史的な背景、補足できる小ネタや描写の掘り下げにつながりそうな知識を提供する、という内容。
仮にも大学院を出て製薬研究の前線にいた身ではあるので、提供している知識量を考えるとまぁ見合った報酬額ではないのだろうけれど、自分の脳が物語を生み出す一助になっている状況が楽しいからいい。
私の提供した知識を喋る主人公、というのがまず面白い。
飲み会で友人が披露したニッチな雑学が、自分が教えたものだった。そういうときのような妙なむずがゆさがある。
基本的には自分の専門である化学(バケガク)の妥当性チェックがメインなのだが、物語の性質上、植生や土木工学などの広範な内容を見ることになった。
つど要素技術を調べ、科学史を紐解き、これいるかなぁ?と思うような雑学知識までをコメントに書き残す。その作業が楽しい。
研究の仕事をやっていると目に入るのは偉大な先行論文を書いているスーパープレイヤーばかりだ。それに比べて自分は。なんと知識の足りないことか。なんだかずっとペーペーなままだな。いくら勉強しても日々の研究は一進一退で、しばしば車輪を回すマウスのような気分になる。
それでも提供できる知識がこれだけあって、物語を編む役にたつと喜ばれる。喜ばれたことに驚く。世間とのズレを較正するキャリブレーションのようだな、となんとなく感じた。
こういう思いがけないアタリを見つけてしまうことがあるから、クラウドソーシングも案外悪くはないな、と思う。吹き溜まりのような案件の山から面白そうなものを探すのも一興だ。