今年も早いもので、残すところ3ヶ月を切ってしまった。
面白かった本として今回紹介するのは以下の5冊。
- 「好き」の因数分解
- 新種発見!見つけて、調べて、名付ける方法
- ##NAME##
- バンクシー ビジュアルアーカイブ
- 骨灰
3Qに読んだ本
まずはざっくりとした振り返りから。
2023年7月〜9月で読んだ本は31冊。だいたい週に2、3冊程度読んでいる計算になる。読むのを優先して記事化が間に合っていないのが目下の課題だ。面白くて紹介したい本が沢山あるのだけれど。
内訳としてはコラム・エッセイが多め。読む本のジャンルが偏りがちなので、最近は意識的に小説を読むようにしている。
以下、今期読んだ本から是非勧めたい本を5冊紹介する。
「好き」の因数分解|最果タヒ
以前このブログでも紹介した本。
詩人である著者の「好きなもの」をテーマに見開きページいっぱいに綴られたエッセイは感性・熱量ともに頭抜けている。独特な3段仕立ての構成も相まって、多面的に輝く「好き」の世界に浸ることができるだろう。
みずみずしい思考、鮮やかな文章を浴びられる、今期一番刺さったエッセイ。
世界が、海と陸に分かれているということを、暮らしているとどうしても忘れてしまう。私たちは陸上に住んでいて、そしてそこにはさまざまな動物がいるはずだった(いなくなってしまったけれど)、ということは頭の片隅に残っていても、私がマクドナルドにいる時も、私が映画を見ているときも、足をつけた地面の先にある海の奥に無数の生命がゆらゆらと泳いでいることは、すっかり忘れてしまっている。陸から見た海は、一つの生命体のようで、波が呼吸のようで、私はその底に何があるのか、ほとんど想像できてはいない。-p18「水族館」
新種発見!見つけて、調べて、名付ける方法
近年の若手研究者による新種発見エピソードに関する本。
Twitter (X) の”#新種発見のエピソード” タグが発端だったということもあり、「この画像バズってた!知ってる〜〜!」と身近なエピソードして楽しめる、ポピュラーサイエンス本として素晴らしい一冊。
震える・・・
— 眼遊 GANYU (@ganyujapan) 2021年11月13日
息子が4歳の時に発見したヨコエビ、なんと新種でした!
この度大阪市立自然史博物館の有山先生の手によって記載されました。
チゴケスベヨコエビ
という和名です。
本種を採取した最初の人類となった6歳児に「1いいね1円」でなんでも欲しいものを買ってやろうと思います! pic.twitter.com/2wju7M1rxV
この話も収められている。
研究エピソード自体もキャッチーなものが多いが、なによりSNS慣れした研究者が多く集まっているので、語り口が面白い。自分たちの身の回りにも実は新種が隠れているかもしれない。そんなロマンにわくわくする一冊。
学名がTwitter由来のダニがいる、オシリカジリムシが実在する、などの生物雑学も収集できる。
チョウシハマベダニ(Ameronothrus twitter)とイワドハマベダニ (Ameronothrus retweet)、後世の研究者が首かしげてそう
— アオミソウ (@sou_aomi) 2023年8月8日
##NAME##
こちらも以前紹介した本。
第169回芥川賞候補作。2000年代サブカルチャーを暗喩的に用いた、「自分ではない自分」の生き方を強いられた少女の物語。
普段「純文学」と呼ばれるジャンルはあまり読まないのだけれど、この本は装丁・題材と文学ジャンルの違和ミスマッチ感に惹かれて手に取った。そして、そのまま物語からしばらく戻ってこれなくなった。
書かれている要素だけを陳腐にまとめてしまえば、毒親の下でのサヴァイヴだとか芸能志望の少女への性的搾取だとか、デジタルタトゥーだとか、そういったものの影響による苦しみだとか、解放だとか、そういう「キャッチーな題材」なのだけれど。
本作の本質は「描かれた主人公の地獄」の向こう側にある、「描かれなかった地獄」の存在に思いを馳せることにあるように思えた。
このあたりの詳細は以下の記事にも書いたが、記事二つ、合計5000文字以上の文章を綴ってしまうほどには刺さってしまった。え、純文学ってこんな感じなの?
増補 バンクシー ビジュアルアーカイブ
謎のストリートアーティスト、バンクシー。
風刺の効いたグラフィックアートで有名だが、何点かの有名な作品以外、どんな絵を発表しているか知らない、という人も多いのではないだろうか。
そんなバンクシー作品を、活動年代で分類し、写真と簡単な背景情報を合わせて見開きで紹介するのが本書だ。いわゆる「画家の作品集」なのだが、一般書と同じサイズ感で手に取りやすいのが嬉しい。
ストリートアートなので、作品写真には絵だけでなく周囲の街並みなども映り込んでいる。いつ、どんな建物に、どのような絵が描かれているのか、という点から、作品の社会的メッセージを読み取ることができるだろう。
ロンドンの監視カメラの多さを風刺している。
骨灰
冲方丁によるホラー小説。こちらは第169回直木賞の候補作。
大手不動産デベロッパーで働く主人公は、『火が出た』『いるだけで病気になる』『人骨が出た』というSNS投稿を受けて、解体予定の大型ビルの地下へ調査に向かう。暗い階段を下るごとに増していく、ありえないほどの乾燥と熱、嫌な臭い。最下層に辿り着くと、そこには建築図面に記されていない、奇妙な空間があった。祭壇らしき台の向こうには巨大な穴があり、その中には鎖で繋がれた男がいた。
……ここまでがkindleの試し読みサンプルでも読める冒頭の内容なのだが、実際に読んでみると掴みがべらぼうに良い。私はホラー耐性は高い方だが、それでも相当に怖く引き込まれてしまった。
もちろんこれ以降もフルスロットルで、徐々に明らかになってくる謎や、尋常ならざるものに侵食される日常に目が離せなくなる。
舞台が東京の真っ只中、というのも新鮮だった。神事や風習、人智の及ばないものがテーマになるホラーは地方が舞台になることが多いのが、戦火や震災の炎に見舞われた東京という都市にスポットが当てられているのが面白い。
今年読んだホラー作品の中でも上位に入る作品。