永田礼路先生を知っているだろうか。医師として働きながら兼業で漫画家をされている、あまりにもマルチな能力をお持ちの方だ。どうやって創作時間を捻出しているのか本気で気になる方のひとりである。
ちょうど最近、永田先生が医師会総会の広報漫画を請け負った旨が話題になっていた。
そういえば、永田先生の作品では「お前の寝言がわからない」(ド理系合理主義男&有能文系女のシェアハウス漫画)を読んだことがあるのだが、他の作品は読んだことがなかった。
せっかくなので、代表作である「螺旋じかけの海」を読んでみた次第だ。
「生命倫理SF」
本作の舞台は、遺伝子操作が氾濫した結果、ヒトや野生動物に他の生物の遺伝子が混入し、身体的なエラーとして表出している世界だ。
ヒトのスタンダードから一定以上外れた者は人間として扱われない。後天的な身体変化も含まれるため、遺伝子操作を悪用した人身売買すら横行している。文明が大きく打撃を受けた社会。
そんな中で、遺伝操作を生業とする訳アリ主人公・音喜多(おときた)の元に、様々な事情を抱えた者たちが訪れる。
世界観がすごい。
海面が大幅に上昇しており、下層民が暮らす”水没街”、遺伝的リスクに応じて高額の税が課される"陸"、言葉でしか登場しないが上級民が暮らすであろう"都" に居住地域が分けられている。
日本の経済は大打撃を受け、行政がまともに機能していない。(警察組織でさえ金銭的なスポンサーの意向に従っている)
横行する遺伝子操作と、「人間」の線引き。ポストアポカリプス的な作品が好きなので、垣間見える作品世界の深さにワクワクが禁じ得ない。
また、SF作品としてのリアリティがこれまた高いのだ。さすが医学や生命倫理に精通しているだけあって、設定の整合性や描写の細かさは本当に見事。
生命科学を齧ったことのある身としては考えさせられる部分もあり、めちゃくちゃおもしろかった。
魅力的なキャラクター
さらに言うと、永田先生は格好いいおっさんや年配の女性を描くのがめちゃくちゃ上手い。主人公のおっさんが魅力的なのはもちろん、肝の座ったおばさん・おばあさんが沢山登場する。
質の高いSF漫画を浴びたい人、生命科学系の作品に惹かれる人、格好いいおっさん、おばあさんが好きな人はぜひ読んでみてほしい。
アフタヌーンの単行本は2巻までだが、永田先生自信が新装版として続編を個人出版している。各種配信サイトでも読めるので要チェック。