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創作論全般に通じる短歌の技法書|『天才による凡人のための短歌教室』【 書評・感想】

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創作論全般に通じる短歌の技法書|『天才による凡人のための短歌教室』【 書評・感想】

先日、歌集の服読本を読んで、人生で初めて短歌に興味を持った。

(大まかな経緯はこちらの書評に書いたので、よければ読んでいただきたい。我ながら渾身の内容に仕上がっていると思う)

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この服読本を読むきっかけになった高知帰省が終わり、自宅のある沼津へ戻ってきた。

沼津駅の2階には、くまざわ書店という本屋が入っている。さっさと帰宅して旅の荷物を下ろせばいいのに、と思いつつも本屋を覗いたところ、一角に短歌のミニコーナーができていた。

せっかくだし、歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』を見てみようか。著者の上坂あゆ美氏は沼津出身だったはずだ。と覗いてみたところ一冊の本が目にとまった。

『天才による凡人のための短歌教室』

初心者に向けた短歌の指南書らしい。なかなか大上段なタイトルの本だ。

 

装丁がとても良く、マットグレーの厚紙に金箔押しの緻密なイラスト。

「歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む」と装丁が似ている。同じブックデザイナーさんなのかもしれない。

『天才による凡人のための短歌教室』の装丁

きらきらの表紙。私はこういう装丁に弱い。

気づけば帰省帰りの重い荷物に、1冊、この本が追加されていた。

期待感に違わず良い本だったので紹介したい。

『天才による凡人のための短歌教室』

本書は元々、著者によって開講されていたリアル講義「木下龍也の短歌教室(ナナロク社主催)」をもとに書き下ろされたものだ。

著者:木下龍也

著者である木下龍也氏は、30代の若手現代歌人。『老人ホームで死ぬほどモテたい』『水上バス浅草行き』の上坂あゆ美氏・岡本真帆氏と同じく、近年の現代短歌ブームを牽引する一人だ。

代表的な歌集に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』などがある。

花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間
(『つむじ風、ここにあります』より引用)


邦題になる時消えたTHEのように何かがぼくの日々に足りない
(『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』より引用)

歌人としては先進的な試みも多く、販売サイト・BOOTHで、リクエストを受けて手書き短歌を販売するサービスなども行なっている。

短歌といえばマネタイズが難しく、歌集の売り上げのみで生活する専業歌人になる難しいと聞く。本業の傍ら短歌を発表する歌人も多い中、こういった収益手法は注目すべきだろう。

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 本書の内容・魅力

著者である木下氏曰く、自分の短歌は技術と目的を持って生み出された、いわば「読者を刺すべくして刺している」作品なのだという。(なので、木下氏自身にとっては、自分の短歌は胸打たれない、つまらないものだとさえ言っている)

本書は、そんな木下氏の築き上げた短歌のコツや技術を公開・解説したものだ。

木下氏は自身の短歌の構成をかなりロジカルに捉えており、「意図的な音韻」「色へのフォーカス」「字面の配置」など、実例を挙げての解説は興味深い。

中でも、”歌人になる” ”歌人としてやっていく” ことについては戦略的とも言える。

正直なところ、筆者の短歌は好きなもの半分、微妙半分くらいの刺さり具合。だけど、本書で語られる具体的な作歌手法や創作方針には納得感がある。

このような、筆者自身が 商業的歌人になるまでの足跡が見える点が、本書の一番の特徴だ。

帯裏には週刊少年ジャンプの副編集長・斎藤優氏のコメントが掲載されているが、まさに職業として創作をしている・しようとしている人には間違いなく価値がある本だろう。

パンチライン連発の両所で、「短歌」を「マンガ」に置き換えるとそのまま使える考えが満載でした。ここ数年で読んだ中ではトップクラスに刺さった本で、マンガ家さんにも勧めています。(『天才による凡人のための短歌教室』帯裏コメント)