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"刺さった本"の感想・書評を書いています。

ウタの少女性|2022-09-04の日記

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今更ながらワンピースFILM REDを観てきたが、

・庇護によって世界と断絶した子供
・救世主の役を背負わされた少女
・悪意なき罪人
・スケールのでかい自己犠牲

と、好きな概念てんこ盛りで心臓をやられてしまった。

曲を聞いているだけで解釈が刺さり、スリップダメージを受けるほどだ。

本作はストーリーの荒さは多少あれど、楽しくアツく、いくらでも深読み考察できるいい映画だったように思う。とりわけ、ウタと劇中の他キャラクターとの対比が印象強かったのでこの場に書きだしてみようと思う。

ウタとルフィ

エレジアでの一件について、ルフィからウタへの対応は一貫して大人びている。

昔のままのノリのチキンレースは全力で楽しむが、「海賊やめなよ」発言によりウタの心境になんらかの変化が生じたことを感じ取ると「もう出発する、船で寝る」と、お祭りごとが好きなルフィらしくない『空気を読んだ』言動をとる。

一貫してウタに手を出さない姿勢も、女の幼馴染だからといった理由ではなく(ルフィは殴る/殴らないに性別を持ち出したことはないはず)駄々をこねる子供相手に出す拳を持ち合わせていない、といった形が近い。

「成長した」ルフィと「子供のまま」のウタの構図が印象的だ。

ウタとウソップ

ウタと同じ「親に置いて行かれた」境遇のウソップ。

空想を吹聴して回っていた点で、旅立ち前のウソップはウタ同様に自分の理想の世界の中で生きていたと言える。しかし、クロネコ海賊団との一件を機にウソップは正しく故郷を巣立ち、長い旅の中で現実と向き合うことができるようになった。

きっと過去(2年の修行期間以前)のウソップだったら、トットムジカという悪魔の存在と、ほぼ無理筋な勝利条件を聞いた瞬間に「夢の中にずっと居ればいい」と言いかねなかっただろう。けれど、成長したウソップは確執のある父親とも素直に共闘し、現実へと帰っていくことができる。

一方でウタは、世界全てを自分の理想の中に閉じ込めることを選ぶ。その姿はまるで、庇護された巣の中で孵ることができないまま腐ってしまった卵のようだ。

一貫して描かれる「子供のまま」のウタ

そのほか、ウタと羊飼いの少年や、ファンとの関係性など、幾層ものレイヤーで「成長できないままに過剰な期待を寄せられてしまった子供」というウタのキャラクターが浮き彫りになっていく。

トドメのように劇場配布の4/4巻では、懐かしきプロフィール帳の体裁でウタのパーソナリティが語られる。これでもかと描かれる幼女性。

 

子供の狭窄な視野と万能感でウタは最悪の手段を選ぶ。救世主になろうとしてしまう。私はただ脳味噌を焼かれながら物語を振り返り続けることしかできない。誰か助けて欲しい。