最高だったインド映画、「RRR」。
わかりやすいストーリーと派手な演出・アクションのおかげで前情報なしでも楽しめる作品だが、多くのインド文化・習俗・伝承にまつわる描写が練り込まれており、それらを知っているとより楽しめるようになっている。
私自身半分もカバーできていないだろうが、「ここは知っていたから物語をより楽しめたな」という部分がいくつかあった。せっかくなので纏めておこうと思う。
ラーマについて
物語終盤で弓を手に取り、オレンジの布を身につけ、それまでの洗練された印象からガラリと変わった姿に変わったラーマ。完全にオマージュ元の「ラーマーヤナの主人公:ラーマ」として覚醒した状態になっている。
ラーマーヤナはインドの2大叙事詩と呼ばれる作品で、古代から語り継がれる神話級の英雄譚だ。主人公であるラーマはシヴァと並ぶインドの神・ヴィシュヌの化身で、猿の王であるハヌマーンと共に羅刹の王・ラーヴァナを倒したとされている英雄だ。矢の尽きない矢筒と弓を持ち、オレンジの衣を纏っている。的を決して外さない弓の名手でもある。
”的を決して外さない”という部分は「RRR」のラーマも早い段階から披露しており、いいオマージュだなぁと頷きながら観ていたのだが、ダメ押しで外見が変化した終盤の姿に完全にノックアウトされてしまった。
なお、ラーマーヤナのラーマにはシータという妻がいて(ビームが言っていた「ラーマ王子とシータ姫」はこれ)、インドでは理想の夫婦像とされているらしい。
ただ、ラーマーヤナのラストではシータとの離別が描かれている。
この予備知識が変にあったせいで、「RRR」を観ていた私は死別エンドになったりしないか気が気ではなかった。警官ラーマ、何度も死にそうな目に遭っていたし。
ビーマについて
ビームのオマージュ元であるビーマ。ラーマーヤナと並ぶインドの2大叙事詩「マハーバーラタ」の登場人物である。パーンダヴァ五王子の次男で、怪力無双のあんちゃん。風の神・ヴァーユの子とされている。
作中でも磔にされたビームの元にビーマの声が届けられた時、風に吹かれた葉が描かれていた。
なお、叙事詩のラーマに力を貸したハヌマーンとビーマは異母兄弟に当たるらしい。ラーマのを兄のように扱うビームとの重なるかも知れない。
バガヴァット・ギーター
「マハーバーラタ」の重要シーンで、ここだけでもヒンドゥー教の聖典のひとつに数えられているらしい。ラーマが唐突に呟いていた、「目的でなく過程が大事」というセリフは、このバガヴァット・ギーターで説かれていた概念の一つでもある。
バガヴァット・ギーターは、同胞たちと殺し合う使命に苦しむアルジュナにクリシュナが教えを諭す内容となっており、「同じインド国民を弾圧したくはないけれど、為すべき大義のために英国体制側の警官として振る舞わなくてはいけない」ラーマの葛藤も重ねられているのかもしれない。
なお、アルジュナはビーマの弟なので、ラーマとビームの兄弟のような絆はここからも窺える。
と、私が知っていたのはこのくらいだが、要所で出てきた神々の像や薬草について、ラーマの区部のまじない紐など、よく噛めば味が出てくるスルメのような要素はまだまだたくさんある。これから2週目、3週目を見ることがあれば、もっと調べて物語を味わい尽くせるようになっていたいものだ。
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