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日本一の繁華街の生態系が垣間見れる本|『ルポ歌舞伎町』

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日本一の繁華街の生態系が垣間見れる本|『ルポ歌舞伎町』

眠らない街、新宿歌舞伎町。

日本一の繁華街として知られているが、猥雑な雰囲気と夜営業の店舗の多さからアングラなイメージも根強い街だ。暴対法改正以前の、暴力団や大陸系マフィアが闊歩する治安の悪さも、依然残っているのかもしれない。最近では「新宿東宝ビル」近辺の路地にたむろする未成年者たち(通称「トー横キッズ」)の存在も話題だ。

そんな歌舞伎町という街の実態は、今、どうなっているのか。

ルポライターである國友公司氏が、2019〜2023年の4年間、新宿にある元暴力団事務所だった建物(通称ヤクザマンション)に居を構え、歌舞伎町のナマの空気感を綴ったルポルタージュが本書である。

ルポ歌舞伎町|彩図社

「眠らない街」「東洋一の歓楽街」と呼ばれた歌舞伎町は、時代の波に呑まれ、今や何の変哲もない歓楽街へと成り下がった──それは本当だろうか。
前作『ルポ西成』でドヤ街暮らしを送った著者は、2019年に歌舞伎町のヤクザマンションへと居を移し、現代に残る歌舞伎町の魅力を探すべく街に入り浸った。
そこで出会ったのは、得体の知れない、そして味わい深い人間たちである。輝くネオンの裏に底知れぬ闇を抱えたこの街で、彼らはどのように生きているのだろうか。歌舞伎町のディープな魅力と暗部に迫った潜入ルポ。

著者である國友氏は以前、大阪ミナミのドヤ街・西成地区のルポを執筆している。以前のルポは未読だが、西成ルポを原作にしたコミカライズは人気も高い。

西成での78日間のドヤ生活のあと、関東に帰還する際、次の潜入先として出版社に打診されたのが新宿歌舞伎町だったそうだ。

私がはじめて歌舞伎町を訪れたのは2011年のことだった。歌舞伎町の魅力というものが、「危うさ、怪しさ」という言葉に集約されるのであれば、ずでに毒が抜け切った時期である。

滞在を開始した2019年以降の歌舞伎町なんて、マイルドになった普通の繁華街だ……とでも言いたげな前口上だが、とんでもない。話題性のある部分をピックアップして出版しているのだろうが、本書で出てくるエピソードはどれもガツンと濃い。

何かを思い出すな、と思ったら、あれだ。連載初期の「池袋上ストゲートパーク」。

直接的ではないとはいえ、インモラル・イリーガルな話も多いため、メンタルが弱ってるときや、人の悪意が嫌なとき、厚顔無恥な人間への嫌悪感が強いときに読むのはお勧めしない。

複雑な歌舞伎町の食物連鎖

本書で特に興味深かったのが、歌舞伎町に生きる人間の捕食・非捕食関係だ。街の生態系とも言えるかもしれない。

特に夜職まわりの関係性は興味深い。歌舞伎町の代名詞のようなホストたち、性産業に従事する女性、客を斡旋するキャッチ。あるいは表立ってはなりを潜めた暴力団。彼らの力関係は複雑に入り組んでいる。

本書で出てくるエピソードだけでも、ポケモンのような相性表が書けそうだ。

スカウト> 風俗嬢 <<ホスト<< 無料案内所 という力関係

夜の街での金銭の動きを食物連鎖に例えるなら、ホストや風俗嬢が頂点捕食者になるだろうか。しかし、実際の生態系と同様に、必ずしも大型肉食獣一強というわけではない。うまくできているな、と感じたのが案内所のキャッチやスカウトといった周辺の職業だ。彼らはいわば、ホストや風俗嬢の上前を餌にする存在といえるだろう。

スカウトは女性を風俗店に紹介し、「スカウトバック」と呼ばれる仕組みで、紹介した女性の売上げから継続的な斡旋手数料を得る。彼らの『狩り』は街で女性に声をかけること……かと思いきや、やり手のスカウトはもっと巧妙だ。

SNSの風俗嬢アカウントを買い上げて運用し、キラキラと華やかなイメージを振りまき、誘引された女性をスカウトして出荷する。そんな戦略的な広報活動を行う例が増えているらしい。スカウトの世界も足で稼ぐ時代から、マーケティングが重要な時代に移り変わっているようだ。 

風俗にスカウトされた女性のうち、少なくない数がホストにのめり込み、大金を遣うために仕事を増やす。風俗嬢の稼ぎが増えれば、スカウトに回る手数料も増える。ホストはホストで、自身の顧客を増やすため、馴染みの案内所のキャッチに多額の金銭で女性の紹介を依頼する。新進気鋭の風俗嬢や”夜職堕ち”してくれそうな女性を紹介してもらえれば、自身の稼ぎも安泰だ……。

思惑渦巻く夜の街では、独自の生態系が形成されている。

本当にこれが令和の日本なのか?

本書ではそのほかにも様々なエピソードが盛り込まれており、読み応えのある一冊に仕上がっている。

  • 難民申請と支援金受給を繰り返し、不法就労する外国人
  • 無償でストーカー撲滅活動をしているチャーリー(仮称)
  • バブル期から残る中華系不法残留者の潜伏地
  • インバウンドと出稼ぎと風俗嬢
  • 飛び降り自殺が多発するビル
  • ぼったくり率100%の黒人系キャッチ

など、どれも現代の話とは思えないほどの濃い話だ。日常では触れることのない暗部を垣間見たい時、この本のページをめくってみるといいかもしれない。