継続。それは最も重要で、かつ難しいことだと思う。
仕事だって、趣味だって、生活だって、つまみ食いしてすぐに手放す人よりも、長年継続し続けている人の方がより高い視座と技術を持っている。
私は継続が苦手な方だ。初めのうちはのめり込んで、それ以外の全てを後回しにするほど没頭するのに、ある程度慣れてくると急に億劫になって距離を置いてしまう。
そんな「継続」ができるコツがあるというなら、どれ、読んでやろうじゃないか。そんな思いで手に取ったのがこの本だ。
継続するコツ|坂口恭平(祥伝社)
執筆、絵描き、作詞・作曲、「いのっちの電話」……どれも20年以上つづけてきた、スランプ知らずの継続マニア・坂口恭平さんが見つけた、「やりたいこと」をつづけるコツが1冊に!
僕も挑戦している最中です。最中であればいいんです。継続中ってことですから - 祥伝社紹介文より抜粋
著者である坂口恭平氏は、18年間でに40作を超える本を出している多産の書き手だ。
本になっていない分も合わせると、毎日4000文字以上の文章を書き続けていることになるらしい。私の書評が2000文字前後なので、約2本分。そこそこの分量だ。この量を土日休みの区別なく書き続けられることは驚嘆に値する。
また、それだけでなく坂口氏は画家、音楽家としても活動しており、こちらも毎日作品を作り続けている。特に画家としては、熊本市現代美術館で個展を開催したり、音楽グループ・くるりのCDジャケットに採用されたりと活躍目覚ましい。
1日が40時間くらいあるのか?と思わざるを得ない。
本書を読めば、それだけのアウトプットを続けられる、ビジネスハック的なコツが得られるのか……と期待したあなた。そんなことはない。この本はビジネス書的な方法論ではなく、むしろ「こういうマインドだと楽しく続けられるよ」と背伸びせずに語りかけてくる本だ。
「楽しいことを続けようよ」と語りかけてくる本
絵や音楽、あるいは運動や勉強。作品や健康、知識といった違いはあれど、どれも何かを作ることで、本来、何かを作ることは楽しいはずだ。子供の頃は一日中、夢中で何かを作っていたじゃないか。
お金になる・ならないや他人との比較は横に置いておいて、作ること=楽しいことを続けて生きていくことには価値がある。
諸々の理由から嫌になって辞めてしまうのは勿体無いよ。こうやったら無理せず、楽しいことを続けられるよ。実際に僕がしてきたことを紹介するよ。
そういって、著者がどうやって「継続」をし続けてきたのかを、流れるままの思考と言葉で語りかけてくる本が、本書である。
どちらかというとエッセイや人生訓に近いかもしれない。
少なくとも、ビジネス書のように即効的なコツを列挙する本ではない。そういうのは、坂口氏の考える本質ではないからだ。
思ったことをそのまま話すような調子で書かれているので、発散的だったり、まだるっこしく感じる部分も正直ある。
紹介されている内容も、「比較や評価を気にしない」「量を決めてとにかく続ける」「楽しくない、自分のやり方に合わないことをやめる」と言った一見シンプルなものだ。
しかし、これらをポンと並べただけでは伝わらない坂口氏の思いや、考え方のプロセスが、坂口氏自身の言葉で語り聞かせられることでストンと落ちてくる。
「才能」は必要ない
結果を出しているのは才能があるからだ。継続は関係ないだろう。
そんな意見もあるだろう。
だが、坂口氏は「才能」という言葉自体には否定的だ。
才能という言葉は、羨望(あの人は才能があるから……)や見下し(お前には才能がないから……)を含んでいる。上か下に向いた視線だ。フラットな視点から自分に対して使う言葉ではない。才能という言葉は、やらない言い訳にしかならない、と坂口氏は繰り返し言っている。
才能とは、継続し続けることでしか示せない。
本書で印象的だったフレーズだ。世間では「続けられるのも才能」と言われることもあるが、実際は因果が逆なのかもしれない。
まとめ
本書はそのタイトル通り、物事を継続するコツ、さらに言えば、無理なく楽しく続けるコツを語った本だ。
何か新しいことを始めたいと考えている人も、続けたいことが長続きしない人も、読んでみると「もっと気軽に続けてみようかな」と思えるかもしれない。
柔らかいけれどしなやかな言葉に押されて、自分も継続を始めたくなる。そんな本だった。