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文法ベースの現代短歌 推敲論|『考える短歌(俵万智)』【書評・感想】

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文法ベースの現代短歌 推敲論|『考える短歌(俵万智)』【書評・感想】

『天才による凡人のための短歌教室』を読んで、短歌の執筆論に興味を持った。

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今回手に取った『考える短歌』は、『サラダ記念日』で短歌ブームを牽引した俵万智御大による、短歌の文章表現についての本だ。

効果的な言葉の選び方について、読者の短歌を添削する形で解説される。おもに動詞や副詞、接続詞の使い方のコツや注意点といった、言葉の使い方の面からのアプローチが多い。

詩歌だけでなく、一般的な文章執筆に通じる内容でもあるため、短歌にとどまらず表現のレベルを上げたい人に向いた本だと感じた。

『考える短歌: 作る手ほどき、読む技術』

どうすれば気持ちを正確に伝えることができるのか。短歌上達の秘訣は、優れた先人の作品に触れることと、自作を徹底的に推敲吟味すること。ちょっとした言葉遣いに注意するだけで、世界は飛躍的に広がる。今を代表する歌人・俵万智が、読者からの投稿を元に「こうすればもっと良くなる」を添削指導。この実践編にプラスし、先達の作品鑑賞の面からも、表現の可能性を追究する。短歌だけに留まらない、俵版「文章読本」。ー「BOOK」データベースより

元々は新潮社の季刊誌『考える人』で連載されていた「考える短歌」という短歌指導の企画をまとめたもので、2004年に刊行された本だ。

読者の投稿した短歌を添削し、具体的な変更点を解説する内容となっている。

どの回もわかりやすく纏まっている上、新書サイズで手に取りやすい本だ。

 ”短い言葉で読者を刺す”を洗練させる方法論

短歌は、短さゆえの言語感覚のシビアさが問われるジャンルだと私は思う。たった31文字しか使えない中では、構成とレトリックがダイレクトに響く。

本書は、特にこのレトリックの推敲に役立つ内容が詰まっている。
いくつか印象的だったものを紹介したい。

 

 ①「も」を疑え

『Aも、Bも……』という表現の、その「も」は本当に適切な表現か?という問いかけ。

「も」で列挙すると、一つ一つを際立たせる力が弱まり、フォーカスがぼやけた印象になる。意図的ならいいが、なんとなくで「も」を使っていないか?と、書き手たる我々に問いかけてくる。

② 副詞に頼るな

「はるばる」来る、「ひっそり」静まる、「きらきら」光る。

定型分と化した副詞表現は多いが、とっくに使い古されており、読んだ時の驚きがない。これらの表現に31文字の貴重な枠を使うくらいなら、カットするか、より鮮烈でオリジナリティのある表現をすべきだという。

これは以前読んだ『天才による凡人のための短歌教室』でも、「きらきら光るな」という章で立項されていた。定型句で文字数を使い果たすな、というのは短歌における要義なのだろう。

③ 主観的な形容詞は避けろ

短歌は追体験の文学らしい。

読者は短歌に描かれた情景を自分の視点として捉え、感覚を共有する。

そのときに「寂しい」「嬉しい」「苦しい」といった主観的な形容詞だけがポンと置かれていても、その視点に入り込むことは難しい。ディテールを伴わない表現は他人ごとに感じてしまうからだ。

形容詞1語に逃げずに、風景や動作を描写する。それこそが感覚の共有につながるそうだ。

逆に、主観的な形容詞を並べ立てることで、同意を求めない独白感を強めることもできるだろう。要は、分かった上で効果的に使うことが大事なのだ。

短歌以外にも通じる文章表現

短く、切れ味よく、読者を惹き込む文章は、短歌にとどまらず、文章のライティングやプレゼンなどでも役に立つ技術だ。実際私も、書評の執筆に活かせそうな内容が多いと感じた。

続編にあたる『短歌のレシピ』も新潮新書から刊行されている。

短歌は、短い文字数で読者の心を刺す文学だ。実例を示しながらの「効果的に響く表現」への直し方を紹介するこれらの本は、執筆者にとって、とても参考になるだろう。