表題の本を読んだ。
年間500冊もの書評を執筆する書評家・印南 敦史氏による執筆論の本だ。
脅威の仕事量の書評家・印南 敦史
印南氏は紙・WEB媒体を問わずに執筆しているベテランの書評家で、その執筆量は月40本にものぼるという。
以下は本書で挙げられていた掲載媒体の一例だ。
「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「WANI BOOKOUT」
これだけでも多いが、中でもライフハッカー[日本版]の連載などは毎日更新。そのほかも毎週入稿や月数本のペースで執筆しているらしい。
月40本ということなので、単純計算でも毎日1、2本は書評を書き上げていることになる。書評だけでなく、本書のような書籍やコラム、エッセイなども執筆しているというのだから、その仕事量は驚嘆に値する。
そんな印南氏が普段何を考え、どのように書評の執筆にあたっているのかが語られているのが、本書『書評の仕事』だ。
本書の構成と内容
この本では、ざっくりと次のような内容が語られている。
現代の書評家の仕事とはどのようなものか
- 今の読者に求めらる書評とは何か
- 印南氏が普段どのように仕事を進めているか
職業として書評を書くことの裏話
- どういった点を見て書評を書くか
- 原稿料や収支
- 文章量(文字数)
- オリジナリティをどう出すか
- 書評を書く本、自分に役立つ本をどう選ぶか
書評を書く技術の話
- 読まれる書評をどう書くか
- 要約のポイント
- 印南氏流の執筆のコツについて
書評執筆についての細かな技法を指南する本ではないが、印南 敦史という書評家の考え方や着目点を窺い知ることができ、何らかの文章を書く人にとって参考になる内容が多いと感じた。
書評のキモは「伝達」と「共感」。
本書で語られる ”書評に大事なこと” は、この2つに収束する。前者の「伝達」は「分かりやすく書く」という、いわゆる執筆論にあたる。本書で特に重視されているのが後者の「共感」だ。
共感を生むためには、読者に近い目線が必要だ。
読者は何に興味があって、何を知らないのか。悩んでいることは何か。どういう情報なら解決可能で、人に紹介したいと思ってくれるのか。
それらは千差万別で、媒体の読者層によって大きく変わってくる。印南氏がこの「掲載媒体ごとの読者」を強く意識していることが、本書では繰り返し語られる。
確かに、印南氏の書評を読むと、ライフハッカーの連載とニューズウィークの連載とでは大きく雰囲気が異なる。前者は「本の情報を伝える」ことが中心の客観的なサラリとした読み口だが、後者はもっと印南市の意見や感想が前面に出ている。これも媒体ごとの読者に合わせて切り口を変えた結果だろう。
自分の分を好きになる
個人的に、本書で印象に残ったのが「文章を書く上では”客観的な自己満足も大切”という部分だ。要は、自分で自分の文章を「いいな」と思えることが必要なのだという。
最も、これは自分で良いと思えるレベルまで推敲し、文章のクオリティを高めることを前提としている。その上で自信を持って公開することが重要だ。
読者を決してナメず、逆に侮られもしないように自信をもって書く。
私自身、ブログで書評を書いていて「この記事で本の面白さは伝わるのか……???」と頭をグルグル回したくなることも多い。だけど、この視点は忘れないようにしたいと思った。