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ファッションという生き様についての対談本|『ファッション ファッショ』【書評・感想】

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 ファッションという生き様についての対談本|『ファッション ファッショ』【書評・感想】

本書はファッション評論家のピーコ氏と、ファッショニスタとしても知られる小説家の山田詠美氏との対談本だ。

ピーコ氏といえば、「辛口ピーコのファッションチェック」のイメージが強い。現在は高齢者施設に入所されているそうだが (URL)、2003年に初出版された本書では、まだまだ鮮烈な辛口ファッション評が味わえる。

 

ファッション ファッショ(講談社)

「流行に踊らされない、ブランドに頼らない」を主眼に、いつの世でも蔓延するセンスのないファッションを、ふたりが一刀両断!さらにはパーティーでのマナーから、いいオトコの見極め方にも話は及び、思わず爆笑、目からウロコ!女性誌で連載開始から大反響だった「愛ある毒舌」対談集。-「BOOK」データベースより

元々は女性誌で連載されていたファッション対談企画をまとめた本らしい。
大人の女子会といったざっくばらんな雰囲気で、二人の哲学、世界観が垣間見える。

二人は「好き嫌いは似てる」が「好みは割と違う」。

切り込む視点は近いが、そのアプローチは異なるポイントも多い。二人とも、確とした自分のシルエットを持つことを重視するが、その方向性や選ぶアイテムは違う。そういった差異も本対談のスパイスになっているようだ。


現在流通しているのは文庫版だが、個人的にはハードカバーの方の装丁が好き。帯を外せば、黒字にカッパーとオレンジのタイトルが敷き詰められていて、とても所有欲が掻き立てられる。

山田詠美、格好いい。

本書を読んで感じたのが「山田詠美氏のファッション哲学、いいな」ということである。正直なところピーコ氏の考えには合わない部分もあったのだが、山田詠美氏の発言は響いてくるものが多い。

本を傍に置いて山田詠美氏の書影やインタビュー記事の写真を見てみると、これがまた、格好いいのだ。

近年はボブカットに太めの黒縁眼鏡という確立されたスタイルなのだけれど、よく見ると眼鏡のデザインが毎回違う。フォックス、オーバル、ウエリントン。その近くで輝く存在のある耳飾りや、大ぶりのブローチ。アイコンひとつとってもマンネリは許さないという信念を感じる。

個人的にすごくツボな「素敵なおばさま」。

山田詠美氏はエッセイも多く出版しているが、それらも手に取ってみたいと感じさせる佇まいをしている。

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ファッションとはライフスタイルの一部である。

確とした”自分のシルエット”を持っていること。流行も着崩しも、基本のシルエットがわかってないと汚らしくなる。

無難なだけはつまらない。どこか1つ面白いものが欲しい。

二人の会話から滲み出るのは、「ファッションとは生活であり、その人の生き様そのものである」という信念だ。

(洋画では端役でもしっかりコーディネートされていることについて)ファッションというのはライフスタイルの一部で、その人がどんな人で、どんなインテリアの部屋に住んでいて、どんな友人がいて、どんな会話をしているのか、一目でわかってしまうものだ、ということを知っているからなのよね。 -「ファッション ファッショ」p24

安物でもアイロンがしっかり当たった服を着ている人、流行のアイテムをさりげなく取り入れている人、高価な服でもシルエットが崩れている人……。なるほど、受け取る印象はそれぞれ大きく変わるだろう。

さて、中途半端にこだわったスニーカーとデニムに数年前に買ったトップスを合わせる私は一体どういう生き方の人間に見えるだろうか。身が引き締まる思いがする。

日本人のブランド信仰への苦言

対談の中で盛り上がっていたのが、「日本人はわかりやすいブランド信仰にかぶいていて、適切な装いができているとは言いがたい」というテーマだ。

要は、いわゆる「インフォーマル(略礼装)」が下手だということらしい。「格式」を服ではなくブランドネームに任せようとしてチグハグになってしまっている、と二人は言う。

ハイブランドのアイテムだからといってフォーマルだとは限らない。

例として挙げられていたのが、イッセイミヤケの「プリーツ・プリーズ」と、エルメスの「バーキン」だ。「プリーツ・プリーズ」は細かいプリーツ生地が特徴のコレクションで、洗濯のしやすさ、シワなどの管理のしやすさが訴求されているカジュアル寄りのライン。「バーキン」はあまりにも有名な高級バッグだが、元々は女優であるジェーン・バーキンの要望から作られた、大きく物がたくさん入る仕事用バッグだ。

つまり、いずれもフォーマルな場面には適さない。それを、ブランドだから高級な場に馴染むだろうと持ち出してしまうのは、確かに日本人にありがちな勘違いなのだろう。

合う・合わないはあるが魅力的な対談本

本書のタイトル『ファッション ファッショ』の「ファッショ」とは、「ファシズム」のことだ。第二次大戦ごろに台頭した、強権・独裁・非民主的な社会思想。ファッションにかけた言葉遊びだけでなく、我と思想の強い二人の対談の性質を示す、とがったタイトルだと思う。

実際、本書は合わない人には反発も大きいだろう。

人にはダメ出ししておいて自分たちには甘いところがあるし(ブランドのちゃんぽん、男受けファッションなど)、年若い青年に高価なファッションアイテムを買い与えて囲っている話など、現代ではギリギリな発言も混在している。

それでも。毒こそあれど、二人の力強いファッション哲学トークは愛と矜持に満ちている。軽快なやり取りも小気味良く面白いので、ファッションに興味のある方は手に取ってみてはいかがだろうか。

 

続編にあたるマインド編も刊行されているらしい。
私も遠くないうちに読んでみる予定だ。

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