パラタイプエー

"刺さった本"を紹介するブログ

生き物の目は光をどう捉えているのか|『奇想天外な目と光のはなし』【書評・感想】

本記事は広告プログラムを利用しています。>詳細

生き物の目は光をどう捉えているのか|『奇想天外な目と光のはなし』【書評・感想】

人が、動物が、はたまた虫や深海生物たちが、どのようにものを「見て」いるか考えたことはあるだろうか。

本書は生物の目の成り立ちから、光を感知している仕組み、光にまつわる生物の生態までを一冊で紹介するよくばりな本だ。キャッチーな題材を章ごとに分かりやすく取り上げているので、科学に興味を持ち始めたばかりの人にも気軽におすすめできる。

『奇想天外な目と光のはなし』の内容と構成

本書は5つのchapterから成る。
それぞれどのような内容が紹介されているかを以下に整理してみた。

chapter 1:目の進化
→目とはどのように進化して生まれたか?

chapter 2:見る・見られる
→目の機能と役割はどんなものか

chapter 3:見えない世界
→ヒトの目には見えない光(紫外線や赤外線、偏光)について

chapter 4:どこまで見える?
→いわゆる”視力”や、色の認識について

chapter 5:感じる光
→光や色を認知するメカニズムと、生態に及ぼす影響

生物がどう光を認識し、利用しているかが順を追ってわかるようになっている。

目の構造はどのように生まれたのか

目に着目したポピュラーサイエンスの本は多いが、本書で特徴的なのは、進化の経緯から目の構造・機能を体系的に紹介している点だろう。

「目の構造」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、以下のような医学的な模式図だ。

ヒトの目の構造

角膜を通した光を水晶体で屈折させ、網膜で像を結ぶ。ヒトの目は非常に複雑な構造をしている。では、そんな目はどのような進化を経て生まれたのか。昆虫の複眼は?カタツムリや貝の目はどうなっているのか?

chapter1では、そういった目の進化と、構造由来の機能について語られる。


目の大元になったものは、単細胞生物が持っていた光の強弱を感じるだけの器官、「眼点」だ。これは今でもミドリムシなどの原生生物にみられる。

そこから多細胞生物に進化する過程で、光の感知に特化した細胞「視細胞」を持つ生物が現れた。視細胞は眼点よりも精度が高いが、まだ光の強弱を感知することしかできず、物の形を捉えられるようなものではない。

やがて皮膚表面に並んだ視細胞の間に仕切りができたり(→複眼へ)お椀のように窪んでいったり(→カタツムリや貝のような目へ)することで光の方向を知覚できるようになり、ようやく物の輪郭を認識できる目になっていった。

さらには、お椀状に変化した目からさらに変化していき、最終的にレンズのような構造ができた。レンズの屈折によって網膜でピントが合わせられるようになり、ものがくっきりと見えるヒトのような目になったという訳だ。

眼点から複眼、レンズ眼への進化

動物ごとの目の機能の違いや見える波長にフォーカスする本はいくつか読んだことがあるが、進化による目の構造的な変化に言及している本は初めてで興味深かった。

「見える」とはどういうことかを俯瞰で考える

Chapter 2以降も、さまざまな生物を例にとって目の機能や構造、見える波長、光を利用した生態の違いについて語られる。どの項目も身近な題材が取り上げられているので、楽しみながら「見えるというのどういうことなのか」を考えることができるだろう。

特に、動物や昆虫の特性を取り上げたものが多い。

肉食動物と草食動物の視野の違いや、ニシキヘビのピット器官などのメジャーな例もあれば、繁殖期だけ見える色が変わる魚や、成長とともに目が退化するフジツボ、ムカシトカゲの第三の目といった珍しい話もあるので、生物好きはきっと楽しめることだろう。

PR

エビデンスには注意も必要

もっとも、本書ではキャッチーさを優先してか、「諸説ある」言説の一つだけを取り上げている例もある。巻末の参考文献も日本語の書籍や学会報告が中心なので、全てを鵜呑みにするのではなく、科学に興味を持つきっかけや、面白いトピックの一つとして捉えるのがいいだろう。


顕著に感じたのは、終盤で登場する「バイオレットライトは近視を防ぐ?」の項だ。

この点について、私はかつて眼科領域の研究をしており、バイオレットライト関連の論文や学会発表もいくつか目にしたことがあるので補足したい。

(ながったるしいので、興味がなければ飛ばして欲しい)

バイオレットライトに関する研究

日本含めたアジアは世界的にみても近視人口が多く、近視の予防や治療は注目度が高い。しかし、実験の難しさ*1から効果的な方法は確立されていないのが現状だ。

「外で日光をたくさん浴びて遊ぶ子供は視力が下がりにくい」という統計データはあるけれど、単に日光さえ浴びていたらいいのか、遠くが見えるのがいいのか、運動がいいのか、といった切り分けすら明確ではない。

こういった近視抑制の新しいアプローチとして2017年頃から注目されたのが、バイオレットライトだ。慶應大のグループによって、太陽光には含まれるが屋内には少ないバイオレットライト(360-400 nmの波長の光)を浴びることで視力の低下が抑えられることが報告されている。

これまでの研究により、二重盲検試験(いわゆる治験/臨床試験)で、バイオレットライトを透過するメガネをかけた子供の近視が抑制されたというデータがありプレスリリースも出ているが、これはかなり限定的な条件*2 に限られ、一般論として有意であるとは言い難い。

とはいえ、科学的トピックに興味を持つきっかけとしては良書

このように、医学・科学的に言い切れないことまでそのまま取り上げている部分はあるが、それを差し引いても本書はいいポピュラーサイエンス本だと思う。

目と光にまつわる生態を手広く取り上げているし、文章も引きが強くて面白い。科学に興味を持つきっかけとしては十分に魅力的な本だ。オマケに装丁も素敵なので、本棚に置いておきたいと思える。

*1:医療関連の研究によく使われるのはマウスだけど、マウスの視力は非常に弱く、色覚もヒトと違いすぎて実験が成立しない。視え方がヒトに近いという点でヒヨコが選ばれることも多いが、鳥類とヒトを同一で語ることには疑問が大きい。

*2:「6才〜12才で、パソコンやゲームなどの近くを見る作業が一日180分未満、かつ、この試験以前にメガネを使用したことがない人」まで絞り込んで、ようやく有意差が出る(p<0.01)。後出しかつ、かなり細かく切り取っているので信頼性は疑問。