タイトルに惹かれて読み始めた本だ。
1月に読むのにこれほど良いタイトルはないと思う。
「どうにもピンとこない、福袋の残念枠」アイテムが嫌で、最近はあまり福袋を買わなくなってしまったのだけれど、本書はアタリの方の福袋だった。
今年手に取った福袋は本書と近所の文房具店の福袋(キングジム製品つめあわせ)の2点だけだ。
大満足の書評本
本書は、英文学者であり翻訳家である富山太佳夫氏の書いた書評集。
1作品に対する短評から、複数の作品を横断して考察を深めるしっかりしたものまで、100を超える書評が収録された大入袋だ。
翻訳家として名を馳せているだけあって、海外の作品が多い。英国、ドイツ、イタリア・スペイン、北米……と、章ごとに区切られるほどにバリエーション豊か。取り扱われる作品の傾向も、文化史から科学、歴史、小説と幅広い。無節操と言っても良いくらい。
ともすればツギハギな印象になってしまいそうな幅広さで、さらには分厚い本ではあるのだけれど、著者の含蓄がありながらも軽快な語り口によってスラスラと読めてしまう。
エッセンスを抜き出し紹介するタイプや、自身のエピソードを交えて物語で読ませるタイプの書評ではない。筆力の高さと周辺知識・考察の深さで、題材への興味を高めてくれる書評本だった。文章に惹き込まれるし、題材にされている本も骨太だ。
なんというか、書評にありがちな「読んだ気になった。満足。」という感じがなくて、紹介さた本を実際に読んでみたくなる。
「文学の福袋」の名の通り、新年の読書の役に立つワクワクが詰まった本だった。
気になった本たち
以下は本書で紹介されていて気になった本の一例。
これ以外にも山ほど面白そうな本が紹介されているので、ぜひ一読してみて欲しい。
牛の文化史
創世神話から記憶に新しいBSEショックまで、西洋文化における「牛」と、文化・精神性との関わりを論じた本。まず、帯の煽り文から面白い。
『牛・牛・牛で犇(ひしめ)く世界!』このコピーを考えた人は天才じゃないだろうか。
ダーウィンが信じた道
ダーウィンといえば進化論。ゴリゴリの科学者なイメージが強いけれど、神学を修めていたり、地理学者でもあったり、航海記がヒットした人気作家であったりと様々な顔を持っている。そんなダーウィンの一面である「黒人奴隷解放への関心」に焦点を当てたのが本書らしい。
生物について深く学んだからこそ、他人種を「別種」とするには差異が少なすぎる、というフラットな視点を持ったのだろうか。
こんな時私はどうしてきたか
エッセイのような外観だけれど、れっきとした医学書。
精神科の大先生が退任後、医療関係者に行った研修会の資料が下敷きになっているらしい。現場でおきた出来事や思索などが、臨床家の目線から語られている。メンタルに不調をきたしている人にどう接するか、という面でも参考になりそうな本。