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異世界転生のガイドとしても。|中世イングランドの日常生活【書評・感想】

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異世界転生のガイドとしても。|『中世イングランドの日常生活』【書評・感想】


中世ヨーロッパに異世界転生した。

残念なことに、何のスキルもチート能力もない。

そんなハズレ転生状態になった場合、中世の社会でどうやって生きていけば良いのだろうか。

そんな時バイブルになるのが、本書中世イングランドの日常生活だ。

「中世ヨーロッパ」世界の生活ガイド

本書は、中世イギリスの社会構造について、衣食住、労働、娯楽、宗教、戦争といった庶民の生活に根ざした内容を紹介した本だ。

”当時にタイムトラベルをしたら気をつけるべきポイント” という体裁で書かれているので、異世界転生した際の移住ガイドとして大いに参考になるだろう。

ギルド所属が安定ルート?

本書によると、現代人が中世社会で暮らしていく場合、都市部の職人ギルドに所属するのが確実なようだ。職人系なら、意外にも女性でも就ける職業は多い。

なるほど。異世界転生モノで、まずギルドの門を叩くのは理にかなっているのだ。

中世社会は文字通り「働かざる者食うべからず」。労働しない者が救済されることはない。まず食い扶持を得ることが非常に重要だ。

ただ、ギルドに行ったからといってすぐ商売ができる訳ではない。

ギルドは基本的に徒弟制を敷いている。まずは金を払って、ギルド登録している親方に弟子入りしないといけない。修行期間は5年はかかる。そこまでして、ようやくギルドに加入して仕事が取れるようになるのだ。

ちなみにギルドは街単位で存在するので、活動は「その街」に限られる。拠点を移す場合は再度、ギルドに加入するところからやり直さなければならない。

運が最重要パラメーター

しかし、町人ならまだしも、うっかり農村……特に最下層の農奴として転生してしまったら最悪だ。

農奴は「領主の所有物」なので人権は無い。同じ低層の労働者階級でも、せめて「隷農」と呼ばれる立場であれば庭付きの家に住めるし、他の農民の土地を買い集めてのしあがる可能性に期待ができるのだが……。

どの生まれを引くか。中世ではそれが最も重要なパラメータである事がよくわかる。

現代社会と意味が違う言葉

馴染みのない社会では、文化や言語感覚の違いは無視できない。

英語でさえ、現代と大きく意味が変わっているものは無数にあるのだ。

例えば、「amazing(素晴らしい)」 は「a maze(困惑)」の意味だし、「Oh my God」なんて言った日には神への冒涜として処刑モノだ。一般人が偉大な神について口にするなんて許されない。「誓い」は神に対して行うので、非常に非常に重い。

異世界初心者は、まずは文化の「見」に徹するのが最良だろう。うっかりタブーを口にしてしまったら社会的に終わりかねない。

そもそも、発音のアクセントが違うことがバレるとまずい。異邦人は厄介ごとの犯人扱いされるのが定説だからだ。

ライトな読み口で中世社会への理解が深まる良書

本書では、上記のような内容以外にも、身分制でガチガチに固められた服装の規則や、戦争で握ることになる武器の種類、主要な農作物や食料の調理法など、生活に根ざしたさまざまな内容が紹介されている。

情報の密度が高いけれど、書き方がライトで非常に読みやすい。
当時の人物への架空のインタビュー形式で書かれている部分もあって、飽きがこない作りになっている。

中世ヨーロッパ世界への異世界転生を予定している方にも、そういった作品を作ろうと考えている方にも、確実におすすめできる一冊だろう。

私自身、少し前に請け負った ”中世イギリスを舞台にした小説” の科学監修で、時代背景を掴むために手に取った。服の材質や食事の栄養事情など大いに参考になったし、言語学的な雑学ネタも多く大満足だ。

同じ出版社から、古代ローマ古代中国版も刊行されている。

興味があればぜひ手に取ってみてほしい。