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祈るような仕事、本づくりに誠実であること|古くて新しい仕事【書評・感想】

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祈るような仕事、本づくりに誠実であること|古くて新しい仕事【書評・感想】


少し前に読んだ本を、久々に読み返した。

ひとり出版社「夏葉社」編集者である島田潤一郎氏のエッセイだ。

同氏が会社勤めをやめ、どうして個人で出版社を始めるようになったか。その経緯と、「本を作ること」への想いが綴られている。

島田氏の書く文章は、もともと小説家志望だっただけあって、非常に引力が強い。

いわゆる編集者の描いた面白いエッセイ(あるいは編集論)の本は多々あるけれど、この場合の方向性が言葉巧みな小気味良さであるのに対し、島田氏の本は穏やかな小説のように、暖かな日差しの中を流れる小川のようにするすると入ってくる。

誠実に本を作る仕事と向き合うこと

この本を読んでいて強く感じるのが、本を作ること、著者と向き合うことに対する誠実さ。

著者である島田氏は、仲の良かった従兄弟との死別をきっかけに出版の世界に足を踏み出した。どうやって出版社を立ち上げて、どのような想いで本を作る仕事を続けているか。本書で綴られている誠実に本づくりと向き合う姿は、まるで祈りのようにも感じられる。

「嘘をつかない、裏切らない、ぼくは具体的な誰かを思って、本をつくる。それしかできない。」 本書帯から引用

装丁という仕事へのこだわり

内容と合わせて注目したいのが、本書の装丁だ。

本書を手に取ると、ハードカバーのしっかりした構造かつ200ページを越える本なのに、非常に軽いことに驚く。少し小ぶりな作りはしっくりと手に馴染んで負担にならない。

文中でブックデザイナーの方との仕事の進め方についても触れられていたけれど、そのこだわりを実感することができる装丁だと思う。

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「Revel Books」へ行ってみた

本書では、各地にある個性的な個人書店が多く紹介されている。本のセレクトショップとでもいうべきだろうか。文字で読んだ限りだが、どのお店も本への愛とこだわりが溢れていてとても魅力的だ。

この本をきっかけに、以前、群馬県高崎市にある個人書店「REBEL BOOKS」を訪れてみた。

住宅街の中に現れる「REBEL BOOKS」

購入したのは夏葉社の「レンブラントの帽子」。
島田氏が出版した本の最初の一冊だ。

本自体は3つの短編からなっていて、どの作品も人の心や移ろいが中心に描かれている。正直なところ咀嚼が難しい話ではあるのだけれど、「人間」がよく描かれていて、著者の方が最初にこの本を出版した理由がなんとなく感じられる気がする。

装丁にこだわっていると書かれていた通り、カバー下に遊び心があり、遊び紙やスピンドルなど、随所から熱意が伝わってくる本だった。

 

多分私は、島田氏の誠実な文章と装丁にかける熱意が好きなんだろう。

あしたから出版社」「父と子の絆」など、島田氏はいくつかのエッセイを出版している。これらも折に触れて読んでみたいと思う。