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「研究者」の熱意に触れられる本|キリン解剖記【書評・感想】

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「研究者」の熱意に触れられる本|キリン解剖記【書評・感想】


昨年は51冊の本を読了した。
買うだけ買って積みっぱなしの本もかなり多いので、今年はもっとたくさんの本を消化していきたい。そんな豊富を抱きながら、2023年最初に読了した本は「キリン解剖記(ナツメ社)」だった。

2022年は「ゴキブリ研究はじめました」「くだらないものがわたしたちを救ってくれる」といった、若手の研究所の方が執筆したポピュラーサイエンス本を多く読んだけど、本書もそれらに並び立つ非常に良い一冊だった。

ちなみに、私は「ポピュラーサイエンス本」というワードを「一般の人にもわかりやすく、科学のおもしろさを紹介している本」という意味合いで使っている。科学的な内容だけを純粋に解説した本でなくても、研究者の日常(研究生活)を垣間見えるものはこのくくりに入れている。

研究になる"熱"を感じる一冊

本書は一介の大学生だった著者がキリン研究の道に進むまでのきっかけ、研究テーマとの出会い、キリンの首の骨についての研究成果を得るまでの解剖の日々を、わかりやすく面白いストーリーで綴った本だ。

国内でのキリン研究はなかなかに高いハードルがある。生息地でもなければ専門の研究機関もないため、研究のための検体は基本的に動物園で亡くなったキリンの遺体を譲ってもらうしかない。大学以外に博物館などからの寄贈依頼もあるため、コンスタントに研究が進められるとは限らない。

だが、著者はキリンへの熱意から、大学入学するや否やキリン研究の隘路をかき分けて進んでいく。

その中で大きな存在となっているのが、著者の指導教官となる自称「解剖男」・遠藤教授との出会いだ。著者のやりたいことを否定せず、初めての解剖のきっかけを作ってくれた教授に出会うことができたのはとても幸せだと思う(教授曰く「国内でキリン研究は難しい」と言ってはいたらしいが)。

望む環境を手に入れられたのは、それだけ研究への情熱があったからだろう。逆に言えば、それほどの熱がないと人生をかけるような研究と出会い、続けていくのは難しいのかもしれない。

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研究の苦しみと楽しみ

これはどうしようもない独り言だけど、ゴキブリの人といい、細菌の人といい、年齢の近い研究者が大きな成果を出して本をバンバン出しているのを見ると、少しだけ苦しい気持ちになる。アカデミックな研究と企業研究が違うのは当然だが、どうにも滲み出るもやもや。ひょっとしたら、精神衛生のために、若手研究者の本を読むのはメンタルが健康なタイミングに絞った方がいいのかもしれない。

でも研究をすることは面白くて、ひとの研究について知るのも楽しい。こうやって、何かに憧れ、苦しみながらも研究というものに触れ続けるんだろうな。

本書の中で「自分の人生が成功だったかなんて、まだわからない。これからの頑張り次第だろう。けれども、今確かに幸せだと思えるのは、子供の心のまま大人になれたからに違いない」と述べてられていたのが印象的だった。アインシュタインの名言を下敷きにした言葉だ。何事も、純粋に楽しめるのが幸せなのかもしれない。

 

本書はジュニア版も出ているらしい。可能なら、20年くらい前の自分にそっと差し入れしたい。