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書き手の思考プロセスを垣間見れる本|ライティングの哲学【書評・感想】

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書き手の思考プロセスを垣間見れる本|ライティングの哲学【書評・感想】

 

書きたい。書こう。書かなければ。でも書けない。どうしても真っ白なエディタを前にすると思考が固まってしまい、そこから進めなくなる。そもそもこの文章は世に出す価値があるのだろうか。

そんな苦しみは、書き手・創り手の誰しもが味わったことがあるだろう。

この本は、そんな「書く苦しみ」と向き合い続ける4人の書き手の執筆論(言い換えれば、執筆の試行錯誤によって生まれた傷と手当ての仕方)を公開したものだ。

執筆陣は以下の4人(敬称略)。
いずれも日常的に「書く」ことを生業にしている錚々たる顔ぶれだ。

 

4人の書き手による「執筆論」トーク

本書は

  1. 「執筆術と悩みの共有」を主軸にした座談会1
  2. 座談会の2年後に書いた「書き方の変化」についての記事執筆
  3. 互いの記事を読み合いながらの座談会2

という流れで展開される。


”書き手4人が集まって、執筆術や執筆の苦しみを共有する” というのが第一の座談会のテーマだ。それぞれの書き手の苦しみや、文章を書く上での工夫などが語られる。

「うまく書けないせいで負った傷を見せ合う」という題目で始まっただけあって、包み隠さず、その生々しい工夫や苦しみの記録が語られているのが特徴的だ。

執筆術についての本というと、技法的な「こう書け」「これは書くな」「こういう心構えを持て」というHOW TOが多い中、一風変わった本だと思う。

さらに特筆すべきは、座談会を一回やって終わり、ではない点だ。

最初の座談会が開催された後2年の時を空けて、今度は「座談会を受けての執筆スタイルの変化、現在の執筆術」についての8000文字の記事をそれぞれが執筆している。

これだけでも軽く内容を補填すれば1冊の本として十分成り立つくらいにエッセンスが詰まっているのだが、さらに巻末では、この記事をそれぞれが読み合って、内容についての意見を交わす2回目の座談会が開催されている。

つまり、この一冊で事前の問題の洗い出し、改善の文章化、振り返り、と完璧な流れで執筆について語られている。書き手それぞれの意見だけでなく、振り返りとフィードバックに至るまでの思考プロセスの可視化にはたいへん価値があるだろう。

書くハードルを下げる工夫:プロも苦心する「最初の書き出し」

本書で印象的だったのが、日常的に記事を執筆しているような方々でも「最初の書き出しに苦心する」ということだ。商業媒体で何万文字分もの書籍を執筆しているような方でも、私のような末端の書き手と同じような苦しみを味わっているというのは新鮮な驚きだった。

白紙の執筆画面は自由度が高すぎて思考が止まる。書き始めてしまえば流れるように書けるのに、最初の1フレーズが出てこない。

そんな抵抗をいかに減らし、執筆の波に乗った状態に持っていくか。その部分に各人の工夫が置かれているようだ。

例えば、準備段階での工夫。
くつろいでいるときにスマホでメモを書き溜め、エディタに放り込んでおく。本格的な執筆に取り掛かる前に、なるべく素材を用意しておいて、あとは編集と補足に集中するという方法だ。

実際に取り入れてみたい方法としては、読書猿さんの「フレームド・ノンストップ・ライティング」だろうか。簡単に言えば、構成の大枠を考えた上で書けるところから筆を止めずにガシガシ書いていく、という手法だ。詳細は読書猿さんのブログでも紹介されているので、興味があればぜひ一読してみてほしい。

私には下書き時点で細かい内容を調べ始めたり、画像を編集しだして筆が止まる、というひどい持病があるが、「止まらずに書いて、後から枝葉を取り払う」方法はそんな症状の処方箋になりそうだ。

この記事を書く上でも試してみたが、早い段階で記事の原型が見えてくるので「白紙のエディタの圧迫感」から逃れられる効能もあり、良い感じだ。

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質の高い情報系同人誌みたいな本かもしれない

本書では、書き手個人の苦しみと試行錯誤の過程がナマに近いまま読める。
いわゆる執筆論の本ではあまりない、思考プロセスにライトが当たっているので、読者側も得るものが大きい本だろう。

ただ、難点もいくつかあり、
・書籍内に使われているフォントが多く、散らかった印象を受ける
・座談会後の記事執筆で当然のように締め切りを延長したプロらしからぬ裏話
・第二回座談会で傷の舐め合いのような印象を受ける部分がある

といった、悪い意味での「書籍として整えられていない」部分も見受けられる。

だが、荒くはあっても収められている情報は質が高い。そういった意味で、褒め言葉として「質の高い情報系同人誌」と評したい本だった。