表題のタイトルの本を読んだ。
基本的な内容は「なぜ人は非合理的で愚かな行動をしてしまうのだろう」という問題に対して心理学や行動経済学などの知見を下敷きに考察を深めていく、という真面目な題材の本なのだが、尖ったタイトルに違わず、内容もなかなかに尖りちらかしている。
24人の研究者による「バカ」考察
本書は24人の著者によって書かれた「バカ」についての論評集だ。
心理学、認知科学、哲学、精神医学など、さまざまな分野の第一人者が、それぞれの立場でバカを定義し、「なぜ人はそのような行動をとってしまうのか」を議論する。
切れ味の良い論調
大枠の内容自体はファストアンドスローなどの社会心理学の本を読んだことがあれば、そこまで目新しい内容はないかもしれない。社会心理学でいう「認知バイアス」を大きな柱に、インターネットで顕在化しがちな「バカな行い」について論じる内容が多い。
しかし、とにかく社会に溢れる「バカ」を全力でバカにしていくの著者が多く、非常に面白い。
「バカの黙示録」の小見出し(この見出しも相当なものだと思うけれど)で ”バカは指数関数的に増えていく” と書かれているが、本書冒頭から続くバカ批判も指数関数的に熱が高まっていく。人を小馬鹿にするコンテンツが好きな人はここだけでもゲラゲラ笑えるだろう。
「バカ」= 無知 ではない
もっとも、本書でバカにされている「バカ」はIQの低い人・無知な人・勉強が苦手な人を指すのではない。無知はむしろ、学びの大きな原動力になる。
バカとは、傾向やバイアスが極端に誇張された人物を指す。
なので、学のある人間がバカになっている時がいちばん手に負えない。自分の思考の偏りを正しく認識することが重要だ。
「学のあるバカは無知なバカよりもっとバカだ(モリエール「女学者」)」-訳者あとがきより引用
本書は24人の大御所研究者によって様々な立場から論じられる「バカ」の話が読める、ぜいたくな1冊だ。SNSやインターネットを題材にした話も多く、普段からネットに慣れ親しんでいる人ほど あぁ、わかるわかる とうなづけるだろう。
無意識の情報処理でも、言語習得の過程でも、人間の営みにおいてはバイアスがかなり重要な役割を担っている。そもそも人間は非合理的な生き物なのだろう。知識人気取りのバカにならないように、自分の言動には気を配りたいものだ。