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"刺さった本"の感想・書評を書いています。

個人的ブックオブザイヤー2023を決めよう

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個人的ブックオブザイヤー2023を決めよう

早いもので、あっというまに年を越し、三が日も過ぎ去ってしまった。

2023年は103冊の本を読み、そのうち43冊についての記事を書いた。文字数は合計8万を超え、結構な分量になっている。今回は、2023年に読んだ本の中から特に良かった本を選抜したいと思う。

せっかくなので、ゲームオブザイヤーをリスペクトし、以下のレギュレーションで分野別に1冊ずつ選んでみることにする。

  • 2023年に出版された本
  • 私が実際に読んで面白いと感じた本
  • 本ブログで紹介記事を書いているかにはこだわらない

「小説、エッセイ、ビジネス・実用書、サイエンス、人文・歴史、ノンフィクション」の6部門について、2023個人的なベストを選出した。

小説部門|ヨモツイクサ

医療ミステリの名手・知念 実希人によるバイオホラー小説。

足を踏み入れると《ヨモツイクサ》の生け贄になる。そんな伝承の残る北海道のとある森で、建設会社の作業員が行方不明になった。警察は大型ヒグマによる事件と判断し、マタギを中心とした討伐隊が派遣される。一方、被害者の遺体からは青白く発光する新種の蜘蛛が発見され……

ヒグマの湿った息遣いを感じるリアルな恐怖、得体の知れない生物と出会うおぞましさ、真相に気づいてしまうミステリ的な恐怖と、複数レイヤーの怖さが絡み合い、多面的に楽しめる物語。ホラーとしてもミステリとしても、今年一番楽しめた小説だった。

 

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エッセイ部門|千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

ヒキの強いタイトルから繰り出される、熱意と行動力のダブルパンチ。

「社会から孤立し居場所がなかった人間が、偶然の出会いから天職に出会った話」のようなつもりで読んでいるといい意味で即座に裏切られる。これは尋常じゃない熱意と行動力を持つ人間が全力超級する様を見届ける本だ。

体験の稀有さも語り口の面白さも非常に魅力的な一冊。

 

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ビジネス・実用書部門|怪獣人間の手懐け方

箕輪厚介による人脈術の本。”怪獣人間”は狂ったように目的だけを見て、成果を残していく人たちを指す。

やべーやつらと渡り合っていくコミュニケーション・人身掌握術と見せかけて、著者のコイツも十分やべーやつ。過去の体験からあれこれ人脈術を説いているが、どの話もとにかくフックが強く「濃い人間の自伝・エピソード集」として楽しめた。

人脈術系のビジネス書として一般化すれば内容は凡庸だ。各章の終わりに「怪獣対応チェックリスト」として教訓がまとまっているので、ここだけ読めば事足りる。しかし前述の通り個人のエピソードが面白いので読む価値はあるだろう。

サイエンス部門|新種発見!見つけて、調べて、名付ける方法

Twitter (X) 上で話題になった研究者たちの「新種発見・収載」に関するエピソードをまとめたアンソロジー。数万RTクラスのバズったエピソードや子どもの発見から新種記載に繋がった例もあり、生物や分類学を身近に感じられる。

発売日はは2022年12月17日なのでレギュレーションからは外れるのだけれど、今年読んだポピュラーサイエンス本の中でも非常に良かったので選出した。

 

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夏のおすすめで選出していたが、ちゃんとした書評を書いていなかった。そのうち書くかも。

人文・歴史部門|歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む

2022年に第一歌集を発売し大いに話題になった2人の若手歌人が、対談しながら互いの歌集の解説をする本。

私は歌集より先にこの本を読むというイレギュラーな楽しみ方をしてしまったが十二分に楽しめたし、2人の言語化能力の高さ、世界をみる解像度の高さに驚嘆した。31字というあまりに短い文中に、これだけの意図が込められているのか。

短歌には一歳馴染みがなかったが、この本を機にいくつか歌集を手にとるようになった。新しい世界を知るきっかけになった本。

 

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人文・歴史系は「ヒエログリフを解け」「たった独りのための小説教室」など、面白い本を複数読んだので悩んだのだけれど、新しい世界に触れるきっかけになったこの本をチョイス。

ノンフィクション部門|ルポ歌舞伎町

2019〜2023年の4年間、新宿・歌舞伎町に潜入取材したルポルタージュ。ひと昔前は暴力団事務所が多数入居していた建物、通称「ヤクザマンション」に居を構え、表には出てこない歌舞伎町の深層を描き出している。

夜の仕事の捕食・共生関係や、不法滞在する外国人、近頃話題のトー横キッズなど、かなり読み応えのある一冊。

ただし、メンタルが弱ってる時やインモラルな人間に対する嫌悪感が強く出ている時に読むのはあまりお勧めできない。

 

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おわりに

こうして見てみると、2023年は多くの魅力的な本に巡り会えた。

同時に、私はExcelに読んだ本と読書メモを記録しているのだが、その年の新刊に絞るとジャンルがだいぶ偏っていることも浮き彫りになった。新刊で手に取りがちなのは主に小説・人文系で、その他は少し前に話題になった既刊が多いようだ。

新しい本が必ずしも良いというわけではないが、もっと新しいものを発掘する楽しみを味わいたいとも思う。2024年はジャンルを問わず書店をチェックしてみたい。